食事が終わり、のんびりとしている時間の中、しのぶが唐突に切り出した。
「それにしても我慢していたなんて! ちゃんと言って下さい!!」
「頼むから忘れてくれ……」
今直ぐ頭の中から消せと思う。だいたい何で馬鹿正直にあんなものを見せたのか、自分に呆れる。
詰まるところ、天元の思う壺。
「……実はあれ以来抱いてくれないの不満だったんですけど」
ちらりと上目遣いでしのぶが見てくるので、
「人が必死に押さえてるときに言うな……」
そう答えるしかない。
箱から一枚取り出して、しのぶがぴらぴら義勇の前に差し出した。
「どうせ貰ったんですから使いましょう?」
「……使いましょうって」
「……もう往生際が悪いですよ」
こうなったら実力行使です!
しのぶは自分の髪飾りを外し、ブラウスのボタンを外していく。
「こ、こら」
「脱いだもん勝ちですよ」
スカートも脱いで、さっさと下着姿になる。
「本気か?」
「こんなこと巫山戯て出来ますか!」
顔を真っ赤に染めて、ブラジャーに手をかける。焦りもあるのか、上手くホックが外れない。
そんな様子すら愛しいと思う。もう自分を抑えることは難しいと悟り、
「……分かった」
そう言うと義勇はしのぶの腕を引っ張り寄せ、そのまま抱き締めた。
「……欲しいのはお前だけじゃない」
「知ってますよ」
彼の腕の中で甘えながらしのぶは思いの丈を伝える。
「……好きですよ、義勇さん」
「俺もだ、しのぶ」
そのまま互いの唇を重ねて、求め合う。互いの舌を絡め、これ以上無いくらい近くで互いを見つめ、抱く力が強くなる。
義勇がごく自然にしのぶのブラのホックを外すと、彼女も彼のジャージのファスナーを下ろしていく。
名残惜しげに互いの唇をゆっくりと離した。
「私だけ脱ぐのはずるいですからね」
「……脱がしてくれるわけか」
「勿論ですよ?」」
「それは楽しみだ」
ジャージの下にある彼のシャツのボタンを外せば、厚い胸板が見えた。
「やっぱり間近で見ると照れます……」
「この前も見ただろう? それに照れるのは普通俺の方だ」
「そう言う問題じゃないですけど」
「お前はもう一枚だけで、俺だけ着てれば不公平だな」
自分の格好を思い出し、しのぶは更に顔を染める。
「無理するなよ?」
「義勇さんは優しいから平気ですよ」
「……ならいい」
互いに残された衣服を脱ぎながら、そんな会話を続ける。
「持ってろ」
ポンッと箱を投げ渡され、そのまま受け取る。
やっぱり凄いデザイン……
改めて見てしまう。
そんなしのぶを抱き上げ、義勇は寝室の布団へと運んでそっと下ろした。
「そこに置いておけ」
「あ、はい」
言われるがままに箱を置くと同時に強い力で引き寄せられた。
「義勇さんって火が付くと早いですね」
「……そうだな」
言いながら首筋に沿って口づけをすれば、ぴくんとしのぶの躰が反応する。それが可愛らしくて堪らない。
「んぁ……」
義勇の舌が這う度に甘い声が出、その舌と手が彼女の胸を味わうべく移っていけば、更に声の甘さが増していく。
張りのある胸を攻めながら、その手は彼女の下半身へ向かい、その秘所に手を滑らせた。既にそこは十分すぎるほどに潤ってはいたが、それでも労るように指を増やしてならしてく。
「あ……ん」
躰を弄られる快感にしのぶのすべてが支配されていき、彼の指の動きに応え続ける。
「きつくないか?」
「だ、い……じょうぶ、です」
それより止めないで欲しいと願う。
「それ、より義勇さんを……下さい」
強請るしのぶが可愛すぎて、それだけで襲いかかりたくなるが、そこは自重しろと何とか止めた。
さて、厄災なのか、幸運なのか分からない箱を見つめ、しばし考える。
……そもそも何で人のサイズ分かるんだか。
正直、天元の思い通りになっているのは癪だったが、しのぶのためでもあるのできちんと装着しておく。
「……割と難なく付けてますけど」
「これでも体育教師だから。避妊の知識は教えるくらいはあるぞ」
「そう、でしたね」
本当に残念なことにしのぶは義勇の授業に当たることがない、つまり逢える時間が少なくなると言うことだ。
今はこんなに近いのに……
そう思ってると世界が横倒しになっていた。
「あ……」
義勇がそっと愛おしむように彼女を布団に押し倒していたのだ。
「……待たせた。行くぞ?」
「……はい」
いちいち律儀に宣言する彼を可愛いとしのぶは思うが、それを告げる前に義勇のものがゆっくりと彼女の中へと侵入が始まる。
「ふぁ……」
彼のものが進むごとにその熱が躰中で感じられ、心地いい。
それでもしのぶは吐息を零しながら、
「……やっぱりソレつけてない方が良いんですけど」
今少し互いを阻むものがあることに不満があるらしい。
「この状態で冗談言えるお前が凄いがな」
「冗談じゃないですよ?」
「なお悪い」
そう言い、しのぶの腰を抱いてもうこれ以上言葉など吐けない状態にしてやる。
愛しすぎる女を今一度抱ける喜びと、どうしようもない背徳感が同時に湧き上がる。
ああ、全く、教師と生徒という柵が鬱陶しいことこの上ない!
自分の下で踊る少女が愛おしい、愛おしくて堪らない。
しのぶもしのぶで義勇を全身で受け止め、身を捩っては喘ぐ。男が与える刺激のすべてに酔っていた。
何度となく引き上げられる快感が全身を巡り、やがて頭が真っ白になる感覚に囚われ、一際大きな嬌声が上がり、しのぶは絶頂を迎える。
「……」
荒く息を吐きながら、しのぶは前よりも感じやすくなっている気がした。それほどに愛しい人との行為は気持ち良すぎた。
「……悪い、まだいってない」
すまなさそうに言う男に少女はにこやかに微笑い、
「……来て下さい」
両手を広げて彼を求めた。
しのぶの痴態に興奮を覚えていたが、何とか押さえ混む。そして彼女の手にキスをし、
「しのぶ、愛してるぞ」
「――!」
しのぶが応えるよりも先に唇が塞がれていた。照れくさいのだろう、彼女の唇を解放もせず、彼女を攻め立てる。
くぐもった嬌声が漏れ出るが、それすら媚薬のように躰を満たしていく。
唇を解放してもしのぶから漏れるのは彼を求めている声だけで、それだけで義勇が達しそうになるほど色っぽい表情を見せた。
それでももっと彼女を味わいたい彼は己の欲望のまましのぶを更に踊らせる。
けれど義勇に余裕があるわけでもない。攻めているようで、彼女に攻められているような錯覚さえある。しのぶの中は極上すぎて己を律することなど出来なかった。
欲しくて欲しくて堪らない。
この腕の中から離したくない、それだけを考える。いってることとやってることの違いに呆れるが、それでもしのぶを求めてやまない。
このまま何もかも忘れて、とは思う。それが絵空事だとしても今は真実だから。
一方のしのぶも義勇が与える快感の波に曝されながら彼の背中に爪を立てることで正気を保とうとするが、そんな間もなく与えられる快感に再び身を浸す。
この腕に抱かれていたい、離れなくない――もう二度と願ってしまう。
結局はどちらも余裕などない、ただ互いをひたすら求める行為に没頭するのみとなる。
やがて互いの手を握り締め合いながらどちらともなく限界を迎え、義勇はしのぶの上にのしかかった。
その重さが彼女には嬉しく、彼の頭を抱き締める。
「……あなたのと直接触れられないのは少し残念です」
そう呟くように言うと、真面目な声で返ってきた。
「……お前の未来を壊すわけにいかないだろう」
「そんなことで壊れたりしませんけどね」
義勇の唇に軽く己の唇を重ねながらしのぶは言った。
「ちゃんとしてやりたい」
さっきまでとはまるで違うことを言う自分に呆れるが、これも本心ではある。しのぶには叶えたい夢がある、それを邪魔したいとは思わない。
「してくれてますよ」
これ以上ないくらいにして貰っているとしのぶは思う。私を理解してくれてますしね。でも私は欲張りなんですよ。
「だからいっぱいいっぱいして下さい。何だったら箱が無くなるくらい」
明るくしのぶは言うが、それは義勇には笑えない。
「……流石に死ぬぞ」
「冗談ですよ、冗談」
「全くもって冗談に聞こえないが」
クスクス微笑いながら、
「でも、いつもでなくてもたまにはこうしてくれないと寂しいです」
愁いを帯びた表情でそう言う。彼女の頬を撫でながら、
「お前に言われると勝てない……それが答えだ」
そのまま唇を何度無く重ね合い、互いを抱き締め合う――朝など来なくてもいいと思うくらい強く。