I love to you.

11


「……義勇さん、抱いて下さい」
 しのぶは自分の涙が止まった頃、開口一番そう言った。
「……今は疲れてるだろう? 一晩でもこうしててやるから落ち着け」
 自分の腕の中にいる少女にそう言う。無論、彼女の言っている意味が違うことぐらいは理解ってはいたが、敢えて意味合いをずらして答えただけだ。
「布越しでない義勇さんの温もりが欲しいんです」
 なおもしのぶはそう言って縋るような瞳で義勇を見つめる。それに逆らえるほど義勇の人間は出来ていない。
 彼女の頬を愛おしげに撫で呟く。
「俺はお前に弱い……」
「私は義勇さんに弱いですよ?」
「お互い様だな」
「そうですね」
 軽口を叩き合いながら、義勇は己の唇をしのぶのものに重ね、その唇を味わう。少女の唇を割ってその舌を絡ませれば、彼女もそれに応えてくる。
 互いに求め合い、やっと離れたのはどれだけの時間を要したのか。
 唇が離れても一筋の糸が暫し二人を繋いでいた。
 しのぶの唇を己の親指でやさしく撫でる。
「……甘いな」
「義勇さんのも甘いです……」
 キスの余韻に浸りそのまま身体に触れようとするも、しのぶの愛らしいワンピースに目が行った。
 このままだと汚してしまうな。
「……服は脱いだ方がいい。お互い皺になるだろう?」
 歪曲な物言いだが、それ以外言いようもない。
「別にいいですけど、義勇さんがそう言うなら」
 自分で脱ごうと手をかけたが少し考えてから、
「……背中のファスナー、下ろしてくれますか?」
 一人で脱げないわけでもないのに義勇に背を向けながらしのぶはそう頼んだ。
「……ああ」
 少女の意図を理解し、しのぶのワンピースのファスナーをゆっくり下ろしてそのまま背後から抱き締めて、己の膝の上に乗せる。
「……下ろしてくださいって言っただけですけど?」
 義勇はその首筋に唇を宛がいながら、
「火を付けたお前が悪い」
 そのまま彼女のブラのホックも外し、ワンピースがさらりと落ちる。
「義勇さん……どんどん服を脱がすの上手くなってませんか?」
「ならお前も脱がしてみるか?」
「言いましたね?」
 こうなればと思って義勇のシャツのボタンに手をかけ、一つ一つ外していく。それだけで自分の顔が赤くなっているのが分かった。
 何とかシャツのボタンは外せたものの、そこからいこう進めない。
「……上だけか?」
「義勇さん、意地悪ですね」
「しのぶの困ってる顔は可愛いからな」
「……もう!」
「冗談だ。無理はいい。俺もお前に触れたいからな」
 そのまま唇を軽く重ね、
「……いつか脱がしてみせますからね」
「楽しみにしてる」
 そう言いながら義勇は己の衣服を脱いでいく。
 う、何度見ても慣れない……
 義勇さんが格好良すぎるからいけないんです。
 それを口にするのは何となく悔しいのでしない。
「……しのぶ、おいで」
「はい」
 残された衣服を脱ぎ、義勇の手招きに応じた。
 しのぶが傍まで来ると男は彼女を抱き締め、ゆっくりと布団へと押し倒す。
「義勇さんは私の裸見ても平気なのに私はいつまでも恥ずかしいって不公平です」
「……平気な訳あるか」
 本当に平気ならこんなに欲情はしないと義勇は思う。
 それを示すように愛おしげに彼女の手、腕、首、胸、足の順に次々とキスを繰り返し、そのたびにしのぶの躰がぴくんと反応する。
 それが可愛くて堪らない。
「き、キス魔ですか……」
「……お前がそうさせる」
 彼が触れていないところがないように執拗に自分の(あと)も付けていく。
「痕……」
「……お前は俺のだからな」
「――っ!」
 思わず絶句しているしのぶの唇を塞ぎながら彼女の豊かな胸を揉み拉き、手の中にあるそれの弾力を存分に味わう。
「ん、、ふっ」
 くぐもった喘ぎ声が愛らしい。
 もっと聞きたい……
 唇から首へと唇を這わせ、そのまま舌も彼女の胸へと向かう。
「な、んかねちっこいですね」
「悪いか」
 胸の突起を舌と指で攻めながら義勇がそう言うと、しのぶは首を振って、
「悪く、ないです」
 そう答えた。むしろもっと自分の躰に触っていて欲しいすらと思う。
 義勇は胸に舌を這わせたまま、彼女の下腹部へと手を滑らせて秘部を[[rb:弄 > まさぐ]]っていく。
「あ……ん……」
 彼の愛撫に身を任せ、快感のままに身を捩らせる。
 義勇は更に彼女を求めるべく、身体をずらして程良く濡れたそこに舌を這わせ出す。
「え、あ、駄目……」
 されたことない行為にしのぶは戸惑うが、義勇は止まるわけもない。彼女の秘部に(したた)る蜜を味わい、彼女を絶頂へと追いやることに専念する。
 どうせなら何もかもを忘れさせたい、そう思うからこそ行為も激しくなる。
 一方のしのぶも戸惑いながら義勇が与える快感に酔いしれ、いつも以上に感じてしまう。
 いやだ、恥ずかしいのに……気持ちいい。
 何とか耐えようとするも快感は瞬く間に駆け上り、しのぶを包み込んでいく。そうして一瞬頭が真っ白になったかと思えば嬌声が上がった。
「ふぁああ……!」
 まるで自分の声じゃないみたいだと思うが、一度上がった声は止まらない。漸く収まったときには躰中の力が抜けていた。
「……激…しいですね」
 息も絶え絶えにしのぶが言うと、
「……お前が可愛いからな」
 そう答えるが、少女から見て冷静に見えても男も余裕はない。彼女の乱れる姿を見て理性が残る方が無理があった。
 だから更に彼女を求めるべく脇に置いておいた箱を取ろうとした途端、その手を止めるしのぶがいた。
「……又買ったんですか」
「……買わされた……まあ、必要だしな」
 誰と聞くも馬鹿らしい、それよりも今言いたいことはそれではなかった。
「……今日はそのままがいいです」
「それは……」
「義勇さんが欲しいんです」
「……お前の願いは叶えてやりたいが」
「だったら!」
「……お前をちゃんと幸せにしてやりたい」
「義勇さん……」
 その言葉はとても嬉しい。真剣に考えてくれていると言うことだから。
「まあ、今お前を抱いている時点で酷い男だがな」
「そうでもないですよ。そもそも私がお願いしたんですし」
 彼の腕の中にあるだけでどれだけ救われるか計り知れない。さっきまであんなにあった恐怖も今はない……
「それとも義勇さんは私を抱きたくなかったんですか?」
「それはない。ないが、必要なことだろう?」
「今日は嫌です」
「……あのな」
「私は今、あなただけが欲しいんです」
 真剣に義勇を見つめる瞳は熱を帯びて、色っぽさが増していた。
 しのぶの望みが間違いだと分かっていてもそれを否定しきることが出来ない。
 しのぶから口づけをし、それ以上言えないように仕向けるが、義勇が何とかそこは耐えた。
「……好きです」
「……俺もだ」
 一呼吸置いて、きっぱり義勇は言う。
「が、今日は使うからな」
「……どうせもう同じことじゃないですか」
 一番最初の時に避妊のひの字も浮かばなかったくせにと思う。
「いやだからって確率上げてどうする……」
「それでもいいかなって」
 何でもないことのようにしのぶが言うので断固として拒否をした。
「……駄目だ。今更と言われようが使う」
「もう……!」
 しのぶには物凄く不満らしく、頬を膨らませてそっぽを向いている。
「そう言う表情(かお)も可愛いな」
「お世辞言っても知りません!」
「世辞は言わない。だから納得しろ」
「はぁい……」
 漸く諦めたのを見定めてから、義勇は箱のなから一枚取り出し、己のものに付ける。
「その代わりデートを又やり直すとしよう」
「……本当ですか」
 漸く義勇の方を見てそう言った。
「嘘言ってどうする?」
「じゃあ許します」
 何を許されたのかと思うが、自分を求めてくれる心は嬉しい。
「……入れるぞ」
「……下さい」
 それが合図となって義勇のものはしのぶの中へと侵入していき、同時に彼女の唇を塞ぎ、奪う。口づけを重ねれば重ねるほどにしのぶの唇は甘くなり、酔いしれる。
「義勇さんって本当にキス魔ですね」
「そうかもな」
 そう言うしのぶも彼とのキスは嬉しくてしょうがない。
 特に二人で繋がっているときのそれは一体感が味わえて幸福感があった。
「それがでも好きです」
「……そうか。俺もだ」
「もう怖くないです……」
 何についてかは敢えて聞かない。その答えの代わりに彼女の腰を抱きながら、しのぶの中で己を暴れさせていくことで応えた。
 しのぶもいつもよりも激しく乱れ、その爪をより深く義勇の背中に突き立てる、彼が付けた痕の代わりのように。
 やがてお互いでお互いを追いやる様にして二人とも高みにに登り着け、同時に果てた。
 ゆっくり彼女から己のものを抜き出しながら義勇はしのぶに文句を呟く。
「……背中が痛いぞ」
「いいんです。義勇さん、これで他の人なんて見られませんからね」
「……元よりない。だったら幾らでも付けろ。俺も付ける」
 そう言ってしのぶの首に軽くキスの雨を降らす。
「ん……義勇さん、痕を付けるのいいですけど首は避けてくださいね……」
「……見えるか」
「見えすぎます……」
 制服ですからねとしのぶが続けると、それもそうかと納得する。
「逆を言えば他ならいいんだな」
 つまり見えないならいいと言うことだ。
「そ、そう取りますか」
「……取る」
 言うが早いか彼女の鎖骨に強く唇を当てて、そこに跡を残す。
「ん……ぁ」
 それだけでしのぶの身体に火が付いたように又火照り、直ぐさま彼を求めてしまう。
「……もっと欲しいからな」
「嬉しい……」
 そのまま唇を激しく重ね合い、もっと触れ合えるように強く互いを抱き合う。
 二人だけの時間……それだけは確かなものだから。

‡     ‡      ‡

 互いを求め合って、どれだけの時間が過ぎたのか分からない。ふと気が付けば結構な時間が過ぎていた。
 ……又止まれなかった。
 義勇はそう思うが、最早しのぶを前にすれば己の欲望を抑えることなど所詮無理な話であった。
「……義勇さん、温かいですね」
 彼女としては少し不満は残るものの、彼に何度となく求められたのは嬉しかった。結局、彼の腕の中で甘えるこの時間が一番好きなのかも知れない。勿論抱かれることも好きだけれど。
「……少し寝ろ」
 眠そうにしている少女に男がそう言うとうつらうつらした様子で応えてくる。
「は……い……」
 余程疲れていたのだろう、少女はそのまま直ぐにまぶたを綴じて寝息を立てていた。
「……起こしてしまうか」
 寝ている間に風呂の用意でもしようかと思ったが、よく眠っている少女を起こすのは気が引けた。
それよりもどうしたらもっと安心させてやれるのかと考える。結局はこうして抱き締めてやる以外出来そうにはないが、
「少なくとも今は悪い夢見てないか……」
 そう言って、義勇は穏やかな表情で眠るしのぶの額にそっと口づけた……
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